酒の命!西条酒の仕込水を楽しく解説!

西条の酒蔵 提供:(株)東広島ケーブルメディア

西条の水は奇跡の水!酒造りに適した水がなければ、西条に酒蔵が集まることも、酒どころとして発展することもありませんでした。まさに仕込水は酒の命!

本企画では西条の酒蔵はもちろん、水の研究をしている小学生や大学の先生、共に西条の魅力を発信している各方面のお店の方々に協力いただき、仕込水の魅力をお伝えします。

目次


1.日本酒に欠かせない仕込水!

1-1. 仕込水とは

酒造りでは主に蒸した米、米こうじ、水を加えて酒を仕込みます。その時に使用する水を「仕込水」といいます。
日本酒の成分の約80%が水ですので(残りの約20%はアルコール、糖分、アミノ酸など)、水はとても重要な原料です。

仕込水の水質が酒質に大きな影響を与えることから、古くから「名水あるところに銘酒あり」と言われています。
水は仕込みに使う以外に、米を洗ったり、道具や蔵をきれいにしたりするのに多く必要で、使用する白米の重さの30倍ほどの水が必要と言われています。


1-2. 仕込水の成分と日本酒の関係

酒造りに適した水とは、基本的にはミネラルを豊富に含んだ水。「硬水」といわれています。カリウム、マグネシウムなどのミネラルが、こうじ菌や酵母の栄養源となるからです。
しかし、同じミネラルでも鉄などの金属は日本酒を変色させるので、含まない方がいいとされています。
水に含まれるミネラル量を表す指標に「硬度」があり、カルシウムとマグネシウムの含有量から計算されます。硬度60mg/L未満を軟水、120mg/L以上を硬水、その間が中硬水と言われています。

情報提供:広島工業大学 生命学部 平賀教授

西条の酒蔵と龍王山 提供:東広島ケーブルメディア


水道水など、日本の水の多くは軟水で、西条各蔵の仕込水の原水である龍王山から湧き出る「龍王の名水」も軟水です。
一方、西条酒造地帯の水は中硬水ですので酒造りに向いています。

2. 教えて竹野先生!西条の水についてお聞きしました。

ここからは、西条の水に詳しい広島国際学院大学の竹野健次先生に西条の水について教えていただきます。竹野先生は2004年に教員に着任されて以来、西条の水質調査を行っている「水博士」です。

東広島市西条があるのは、周囲を山に囲まれた標高250m程度の西条盆地です。この西条盆地は古くは大河で、その頃に堆積した地層が良質の地下水を生み出していると、竹野先生は推測しているそうです。

西条の地下水の流れ 提供:西条・山と水の環境機構
「西条の酒蔵が仕込水として使用しているのは龍王山の伏流水です。伏流水とは、砂礫層(されきそう)など水が浸み込みやすい地中を流れている地下水のことです。龍王山に降った雨が地中に浸み込み、長い年数をかけて西条の酒蔵まで流れる間に、水は「軟水」から「中硬水」へと変わります。本来、地下水は鉄分が多くなりやすく、酒造りには不向きな場合が多いですが、西条酒造地帯には奇跡的に、鉄分が少なく適度にミネラルを含んだ中硬水が湧き出ています」

と竹野先生。

竹野先生の研究では、西条の酒造会社の仕込水で酵母を培養すると、1週間後の酵母の量が軟水よりも4~11倍多かったということです。

このようなことから、西条酒造地帯の水は「奇跡の地下水」「宝の水」と呼ばれています。その水を守るため、2001年に「西条・山と水の環境機構」が設立され、竹野先生をはじめとする大学関係者や酒造関係者、行政機関、企業などが一体となって龍王山を定期的に手入れし、水源の環境を守っています。

「酒文化を守るためには水源となる森林の保全活動が重要です。水質は一度悪くなると回復に長い時間がかかります。長期的に調査をすることで、自然が発する警告をいち早くつかんでいきたいです」

と竹野先生。

また、竹野先生の他にも、広島工業大学では食品生命科学科・平賀良知先生の指導の下、学生が主体となって「西条水質調査隊」を結成し、定期的に水質調査を行っています。 このように、西条の地下水の水質は、多くの方の努力により維持されています。


3.各蔵の井戸を見学しました。

西条各蔵にご協力いただき、龍王山から湧き出る「原水」と、各蔵の井戸を見学しました!

3-1. 龍王の名水(原水)

龍王山の中腹にある湧き水。龍王山の雨水が西条酒造地帯の地下水の原水といわれています。短期間しか地中を通っていないため、あまりミネラルを含んでいない軟水です。龍王山のふもとにある憩いの森公園から徒歩で行くことができます。


3-2. 一号蔵の井戸(賀茂鶴酒造)

賀茂鶴一号蔵にはいくつかの井戸があります。「一号蔵井戸」は賀茂鶴創業時からの井戸で、深さは約9m。登録有形文化財(建造物)に指定されています。

現在は水量確保のため、同蔵敷地内に掘った「福神井戸」の水と合わせて、二号蔵での酒造りに使用しています。一号蔵は現在では見学室直売所に姿を変え、賀茂鶴の歴史、文化を伝える役割を担っています。
入り口にある「福神井戸」の水は一般の方もお召し上がりいただけます。

3-3. 恵比寿一号井戸(福美人酒造)

創業年である大正6年ごろに建造された深さ約11mの井戸。本社恵比寿蔵内に設置されているため「恵比寿一号井戸」と呼ばれています。
井戸は一般の方に開放しており、毎日汲みにお見えになる方もいるそうです。

福美人の名にあやかり、別名「美人の井戸」とも呼ばれており、飲むと美人になるかも。ぜひ一度お召し上がりください。

3-4. いちの井(白牡丹酒造)

白牡丹株式会社の敷地内にある深さ約15mの井戸。
明治期には井戸の周辺は四日市の宿駅であり、牛馬市が開かれていたことから「いち(市)の井」と呼ばれています。

当時、近郷の酒造家が水を汲みに来ていたという名水で、その後町役場となり、市制移行を経て昭和49年から白牡丹が所有しています。
大吟醸酒は全て「いちの井」の水を使用して仕込んでいます。

3-5. 天保井水(西條鶴醸造)

江戸時代・天保年間(1831~1845年)に掘られたと伝えられている深さ約10mの井戸。西條鶴が創業した明治34年より酒造りに使用されており、酒造りの根幹を担ってきました。
昭和60年代初めまで西条の水道水源は乏しく、夏場は断水がつきものでした。井戸水は酒造りだけでなく街の生活も支えてきたということです。

3-6. 万年亀井戸(亀齢酒造)

明治中期ごろに建造された深さ約14mの井戸。「鶴は千年、亀は万年」のごとく、長命と永遠の繁栄の意を込めて名付けられたのが社名の「亀齢」です。「万年亀(まねき)井戸」は社名の由来にちなんで名づけられました。

「まねき」という読み方には幸福と多くの方をお招きする場所にしたいという意味も込められています。酒造期以外は井戸を開放しており、多くの方にご利用いただいています。

3-7. 賀茂泉酒造

賀茂泉には3本の井戸があり、2本を仕込水、1本を洗い水として利用しています。仕込水として主に利用している井戸の深さは約30mで、水質は中硬水です。賀茂泉のお酒にはなくてはならない存在です。
平成元年に建造された井戸は、仕込み水と同じ水質の水が出なかったため、洗い水として利用しています。地下水脈の複雑さを知る出来事でした。
お酒喫茶「酒泉館」前の水汲み場では仕込水と同じ水質の水を汲むことができます。ぜひご利用ください。

3-8. 黒松の井戸(山陽鶴酒造) 

 蔵に隣接する深さ約12mの井戸。名前の黒松とは、昔、山陽道に美しい黒松の並木があり、その黒松に舞い降りた鶴を見た創業者が、銘柄を「黒松山陽鶴」と名付けたことに由来します。
隠れ家的な雰囲気をもつ母屋の脇の細い路地を進むと井戸がありますので、ぜひ探索してみてください。

3-9. 金光酒造             

大正時代から昭和初期に建造された深さ7mほどの浅井戸。西条から少し離れた黒瀬町にあります。創業時より仕込水として使用されている歴史のある井戸です。
建造当初は、鉄分が多く赤い水だったため、酒造りにあまり適していた水ではありませんでしたが、ある時、無縁仏となっていたご先祖様のお墓をきれいにしたところ、透き通った鉄分の少ない水が湧き出るようになったそうです。


4.各蔵の水を小学生と飲み比べ!

 同じ龍王山の水を原水とする西条各蔵の水はいったいどのような味なのでしょうか。東広島市立西条小学校にご協力いただき、水の飲み比べを行いました。
西条小学校の児童は毎年、4年生が西条の水に関する勉強をしています。

今回は各蔵の水と、龍王山の原水「龍王の名水」、水道水を試飲してもらいました。児童たちは興味津々。
「これは違う!」「よくわからん」と楽しそうに試飲していました。気になる結果は、意外にも「それぞれの水の味わいに差がある」ということでした。

同じ原水で酒蔵も近くに集まっているのですが不思議ですね。
中でも多くの児童が差を感じていたのが白牡丹酒造と山陽鶴酒造の水。
白牡丹酒造の水は水道水や龍王の名水に比べやわらかく感じるのに対し、山陽鶴酒造の水はさっぱりと感じられました。

児童たちも味の違いに驚いている様子でした。
皆さんも西条を訪れた際は、観光の合間に各蔵の水を飲み比べてみてはいかがでしょうか。



5.仕込水で料理の味はどう変わる?

水を変えると米やパンの味が変わる?
よく聞く話ですが本当に変わるのでしょうか?
水道水と各蔵の水、龍王の名水を使って比較してみました。

5-1. 米を炊いてみた。

まず初めに皆さんが日々家で炊いているお米。はたして味は変わるのでしょうか?
西条の酒蔵を代表して賀茂泉酒造と賀茂鶴酒造の水を使用しました。

1つ1つ炊飯器で炊くのは大変なので、電子レンジを使用しました。

《米の炊き方》

電子レンジ調理可能な耐熱容器に米0.5合と水110ccを入れます。
(今回は無洗米を使用しましたので米は研いでいません)
米に水を吸わせるため30分ほど置き、レンジに入れます。
500Wで約10分加熱すると水が沸騰してきますので、200Wに下げてさらに15分ほど加熱します。その後、10分蒸らして完成です。

《 結果 》

まずは見た目ですが、正直あまり差がわかりません。
ひとまずレンジでもちゃんと炊けていて安心しました。味の方はどうでしょうか? 龍王の名水は軟らかい食感で、味や香りはあっさりした印象です。

賀茂泉酒造、賀茂鶴酒造の水はそれよりもさらっとした口当たりですが、米の良い香りが感じられ、噛めば噛むほど味が出て、とてもおいしかったです。

水道水はいつも家で炊いているお米の味で、これはこれでおいしいです。水の味の違いなのか、お米の味や香りがそれぞれ異なります。水道水で炊いたお米が米の香りと思っていましたが、もしかすると違うのかもしれませんね。

5-2. パンを焼いてみた。

パンも水の違いによって味に変化があるのでしょうか?

今回は西条東北町にあるパン屋さん
「Boulangerie Chez GEORGES(ブーランジュリ シェ ジョルジュ)」さんにご協力いただきました。
水道水、龍王の名水に加え、西条の酒蔵からは亀齢酒造と金光酒造の水を使用しました。はたして結果は!?

《作っていただいたパン》

パンは2種類作っていただきました。
1つ目はフランスパンの一種「リュスティック」。
水の割合が多く、小麦粉と同じ量の水を加えています。生地がとても軟らかく、丸めたり伸ばしたり成形したりすることができません。生地を置いたそのままの形でオーブンへ入れます。
2つ目は食パンです。お店で販売しているものと同じ配合で試作していただきました。

《結果①》

では1つ目のリュスティックの焼き上がりを見てみましょう。水道水を使用したパンは表面に割れ目ができています。
龍王の名水を使ったパンは軟らかいのか、中央部が凹んでいます。

亀齢酒造と金光酒造のものは特徴的な差はありません。半分に切って断面を見てみましたがどれも同じような見た目で、大きな違いはありませんでした。

では試食してみましょう。これは!?
なんとどれもおいしいです。

食感がわずかに違い、水道水は表面が特に硬く、噛んでいくともちもちとした食感に変わります。龍王の名水は一番軟らかく感じました。
亀齢酒造と金光酒造はサクッとした歯応えで、噛み進めてもフワッとした軽い噛み心地でした。

 《結果②》

次は食パンの結果です。
焼き上がりは亀齢酒造の水を使用したパンがわずかに縦に膨らんでいます。

断面を見ると、龍王の名水を使用したパンは他の3つに比べ空洞が少ないように見えます。試食してみるとやっぱりどれもおいしい!

龍王の名水は軟らかい食感です。水道水はそれよりもしっとりもちもちしており、亀齢酒造と金光酒造のパンはふんわりとしています。水道水に比べ、他の3つのパンはより良い香りがしました。

5-3. お茶を入れてみた。

次にお茶はどうでしょうか。「お茶の平野園」さんにご協力いただき、おすすめの茶葉と茶器をお借りしてお茶を入れました。仕込水は福美人酒造と西條鶴醸造の水を使用しました。

お茶は高級玉露の産地として知られている福岡県の八女茶を使用しました。甘くてコクがあり、旨味の強いお茶なので、使用する水に対して味の変化が分かりやすいそうです。
茶器はお茶の色が分かりやすい、白の美濃焼。平野園さんでよく使用されているそうです。

《お茶の入れ方》 

お茶は入れる時の条件が少し変わるだけで味も変わります。
条件をそろえることが重要ということで、お茶の入れ方からご指導いただきました。6gの茶葉を急須に入れ、70℃に沸かしたお湯を150cc注ぎます。

1分半たった後、別の急須にお茶を移します。このとき最後の一滴までお茶を移すことが重要だそうです。

《結果》

左から水道水、龍王の名水、福美人酒造、西條鶴醸造

まずは見た目から、水道水と龍王の名水で入れたお茶は透き通っていますが、酒蔵の水で入れたお茶は両方とも濃い色をしています。これはどういうことなのか? もしかして苦いかも…。

恐る恐る飲んでみると…「これはおいしい!」お茶の香り、旨味、甘味が感じられます。でも後味はすっきり。

これに比べて水道水は味、香りが控え目で、苦味と渋味が後に残ります。龍王の名水は水道水よりも苦味、渋みが少なくすっきりしています。
水が違うと見た目や味に差が感じられるという、面白い結果になりました。

ここまで仕込水について調べてみましたが、いかがでしたでしょうか。

米もパンもお茶も水を変えるだけでこんなに味が変わるとは驚きました。きっと日本酒でも水が各蔵のお酒の個性を引き出しているはずです。

現在、水は当たり前のように手に入りますが、水質は各地で違い、環境の変化によっても変わってきます。大切にしていきたいですね。 皆さんも西条の奇跡の地下水を飲み比べて、お気に入りの水を見つけてください。



ご協力いただいた方々

東広島市立西条小学校の先生方と4年生児童

西条中央の高台にある小学校。
小学校からは西条の街並みを一望できます。

西条小学校では4年生の「水の学習」の他にも西条についての学習を行っており、今年は5年生が「西条酒蔵通り」について学習しています。

広島国際学院大学 工学部
生産工学科 竹野健次教授

大学を卒業後、広島市内の環境分析会社で分析技術員として勤務の後、広島大学大学院に進学。博士課程修了後、2004年に広島国際学院大学の教員に着任。
専門は環境科学で、環境計量士(濃度関係)の国家資格を持つ。

竹野先生の研究室では20年以上前から西条の水を調査しており、2019年5月には長年の水質調査が評価され、西条・山と水の環境機構から「山水功労賞」を授与されています。また、2019年より西条小学校で水に関する特別授業を行っています。


広島工業大学 生命学部
食品生命科学科 平賀良知教授 

1991年に広島大学大学院を修了し、2012年から 広島工業大学の教員に着任。専門は天然物有機化学、機器分析化学。

平賀先生の研究室では近年の西条の開発が地下水に悪影響を及ぼすという危惧から、学生が有志で西条水質調査隊を結成し、西条酒造地帯の水質を調査しています。また、講義や実験を通じて、水質分析の醍醐味を伝えています。

https://www.it-hiroshima.ac.jp/news/2020/01/20191229.html



Boulangerie Chez GEORGES
(ブーランジュリ シェ ジョルジュ)

西条東北町にあるパン屋さん。2015年にオープンしました。メガネとお髭が特徴的な店長がいらっしゃるお店です。

パンだけでなくFacebookに掲載されている奥さんの漫画にも注目です。

https://ja-jp.facebook.com/boulangerie.chez.georges/


有限会社お茶の平野園

1905年創業の老舗茶屋。2016年に西条酒蔵通りに移転しました。皆様の小さな幸せに貢献することを経営理念に掲げ、お茶や茶道具を販売しています。

https://hiranoen.co.jp/